僕は深宮快。
中学生二年生で、髪は少し長め。普段はおとなしくてあまり目立たない。
今日は神社で秋祭りがある。
今は神社の前で友達と待ち合わせをしているところだ。友達と一緒に神社の祭りに行ったことは今まではなかった。
だからこそ、友達と祭りを楽しむことにした。
息抜きにはいいかも知れない。
「あれ、深宮君も来ていたの?」
と、不思議そうに言われた。
ふと、声のした方を見ると担任の伊利尾結先生が立っていた。
伊利尾先生は僕のクラスの担任の先生で、髪は長めのストレート。
優しくて生徒に人気がある先生だ。
「いや、僕は祭りこれから友達と一緒に楽しもうと思って。ここで待ち合わせをしているところですよ」
僕はそう言った。
そんなことよりも僕は、なぜ伊利尾先生が祭りに来ているのかが気になったのだが。
「そうなんだ。今日はプライベートで、個人的にお祭りが楽しみで来たの。まさか、深宮君も来ているとは思わなかったけどね」
伊利尾先生は少し驚いてそう言った。
「深宮、もう来てたのか」
伊利尾先生と僕が話をしている間に友達が来ていた。
名前は中崎謙吾。
僕とおなじく中学二年生。僕のクラスメイトで、運動が得意で明るい性格だ。
「僕は時間までに行くタイプだから。今日は中崎にしては遅いな」
運動が得意ということもあってか、普段は遅刻もなくて時間までになるべく早めに来ていることが多いので、僕よりも遅く来るのは珍しいことだった。
「途中で忘れ物を取りに戻って遅くなったんだ。しかたないだろ」
中崎は、ムッとしてきつい口調で僕に言い返した。
その後二人で、夜店の近くで話をしていた。たわいもない世間話だ。
だが、しばらくして僕らの後ろの方で「きゃーっ」という悲鳴がした。あたりが急にガヤガヤと騒がしくなる。
悲鳴がした数分後に救急車とパトカーが到着した。なんだか、僕にはそれがとても場違いな感じがする。
「何かあったのかな?」
と、僕は不安になって聞いた。
「そうだな、神社にパトカーが来るなんて聞いたこともないな」
と考えながら不思議そうに中崎が言った。僕が伊利尾先生を見ると、中崎と同じ様に思ったのか首をかしげている。
悲鳴がした方へ向かうと絵馬掛けのそばに人が集まっていた。急いで人だかりの中を進むと、背中を包丁で刺された人が倒れていた。
被害者はメガネをかけ、小太りでオタクっぽい30代の男性。髪はストレートのようだった。地面には大きな血溜まりができていた。
僕が来た後に駆けつけた警官に野次馬は追い払われ、しかたなくその場を離れた。その後、殺人現場は当然のごとく一般人の立ち入りは禁止になった。
僕と中崎は、伊利尾先生に何が起こったのかを説明した。重大なのは人が背中を刺されて死んでいたという事実だ。
「面倒だな」
僕はそう誰に言うつもりもなくつぶやいた。
「深宮君、面倒って何が面倒なの?」
と、僕がさっき言った言葉の意味を理解できなかった伊利尾先生に聞かれた。
「そのままの意味ですよ。詳しく説明すると話が長くなるんですが、それでもいいですか?」
僕は念のために伊利尾先生に確認をする。
「私は別に話が長くなっても良いけど」
と、言葉を区切ってから伊利尾先生は中崎を見る。
「俺も詳しい話を聞きたいな」
不自然にならないように中崎は口調に気をつけて言った。
「僕が面倒だと言ったのは、事件の犯人がまだこの近くにいる確立が高いということなんですよ。事件が起こってから時間はそんなに経っていませんから、遠くには行っていないでしょうね。通り魔も考えられますが、他人に恨まれることがあるならまた別でしょう。それなら、被害者と面識があり、よく思っていない人間を割り出せば良いんです。面識も理由もないのに人を殺したりすることは考えられませんからね」
と、僕は簡単に中崎と伊利尾先生に説明した。
「通り魔は考えにくいだろうな」
と中崎が自分の意見を言った。
「通り魔ではないとしても犯人が捕まってくれないと、先生は自分の生徒のことが心配でしかたないのよ」
伊利尾先生はとても不安そうに言った。
周囲の警備体制が強化されたのか、警官が前より増員されたように感じる。辺りをみていると知った顔があった。
「とりあえず、被害者と面識がある人で祭りに来ているか、祭りをしている場所の近くにいる人がわかればいいんですけどね」
と、僕は伊利尾先生に言った。
いくらなんでも、犯人が自ら名乗って捕まりに来ることはない。
他の無関係な人を事件に巻き込むこともある。だから僕は犯人を捕まえないと気がすまない。
犯人を捜し出す手がかりがないか僕達が考えていると、急に声をかけられた。
知った顔があると思ったのは、警官をしている僕の叔父さんだった。
「誰かと思ったら快君じゃないか」
と叔父さんに言われた。
さっき警官が増員されたときに、叔父さんも来ていたんだろう。僕には予測できていたのでそんなに驚きはしなかった。
ただ、伊利尾先生と中崎は僕の叔父さんのことを知らなかったので、随分と驚いたようだったけど。
「ああ、叔父さん。お久しぶりです」
と、僕は言った。
こんなところで取り乱すのはみっともないように感じるので、僕は意識して落ち着いた口調で言うようにした。
「もっと驚くかと思ったんだが。まあ、誰にでも予測できるようなことだから驚かないのも無理はないな。ハッハッハ」
悲しそうな顔をして、最後は適当に笑って誤魔化して言った。本当は僕にもう少し驚いて欲しかったというのが叔父さんの本音だろう。
「叔父さんは仕事で、さきほど来たばかりなんでしょう。仕事は放ってもいいんですか?まじめにしてください」
と、僕は叔父さんにわざときつく言う。
伊利尾先生は僕が言い過ぎじゃないかと心配そうに見ていた。
こうでもしないと叔父さんは、仕事のことは手を抜きそうだ。僕はそういう様に思う。悪魔でもこれは予測にしか過ぎないのだけど。
「事件のことなんだが、ちょっと聞いてくれないか」
と頼まれた。
自分の叔父さんからの頼みだ。話ぐらいは聞いてみよう、と思って僕は頷いた。
事件について詳しいことが解ればこちらにとってプラスになる。だから、聞いても決して損にはならない。
「容疑者は今のところ、6人。被害者に恨みがある容疑者は4人だった。今日この神社で祭りがあったのを知っていたのは、自宅がこの付近にある4人のみ。この4人の中に犯人がいると考えて間違いないと思う」
しかし、何で被害者はこんなに多くの人物に恨まれているのだろう。普通はこんなに恨みを買うようなことはないものだ。
「そうですか。でも、被害者は何故恨まれているんですか?理由がわからないんですが」
と尋ねた。
「恨まれる理由はいくつかある。金銭関係や暴行がほとんどだった。4人は被害者とそういったことでトラブルがあったらしい」
叔父さんは真顔でそう言った。
「なるほど。それなら納得できますね。すみませんが、事件現場のあたりに他のものが落ちたりしていませんでしたか?」
「ああ、あったよ。紙切れが死体のそばに落ちていたんだ」
それはよかった。なんとかなるかもしれない。
「ありがとうございます。助かりました。あと、2つだけいいですか?」
「もちろん。で、なんだい?」
と、即答された。
「容疑者4人の名前と、被害者とどんなトラブルがあったのかを教えて下さい」
と僕は言った。
「容疑者4人の名前は、宮田隆二:原経吾:浅木裕未:近藤雄助だ。順番に言うと、金銭関係・物の貸し借り・恋愛関係・暴力のトラブルがあったそうだ」
と、叔父さんが言った。
「それから・・・・・・」
と僕が言いかけると叔父さんは言葉を遮った。
「わかった。そのことは約束するよ」
どうやら、僕が何を頼むつもりなのかわかったらしい。
「では、お願いします」
そう言ってそのことは叔父さんに任せることにした。
話の途中ですっかり忘れていたが、伊利尾先生と中崎は黙って立っていた。
「ごめん、話が長くなっちゃって」
と、僕は言った。
「2人だけで話さないでよ。先生も話したかったのに」
いじけたような感じで伊利尾先生が言った。
「で、事件について詳しいことがわかったのか?」
と中崎が聞いてきた。
「うん、まあね。これから説明するから、聞いてくれないかな」
と笑顔で僕は言った。
とりあえず、3人で事件現場の方へ向かう。僕たちが来たときには、容疑者の4人はすでに現場に着いていた。
「さて、この容疑者の中に犯人はいます。被害者を殺害したのは宮田隆二さんです」
と、僕は自信を持ってはっきりと言った。
「な、何で俺なんだよ?恨みなら他の人もあるだろ」
自分の名前を言われて不満そうに宮田さんが言った。
「それが、違うんですよ。他の人は殺害してはいません。それになにより、証拠があります」
「その人が殺害した証拠って?」
と、伊利尾先生が聞いた。
「紙切れです。これは小切手ですね。宮田さんは被害者にお金を貸していた。つまり、被害者は宮田さんに借金をしていたというわけです。そして、返すように要求したが、返してもらえなかった。それで腹が立って被害者を後ろから刺して殺害した。こんなところでしょうね」
と僕は言った。
なんとか、事件そのものは僕によって解決した。他の容疑者の人達は釈放された。その後、宮田隆二は逮捕された。
去っていくときの背中が僕には寂しそうに感じた。
事件が解決してから伊利尾先生と、中崎と一緒に僕も祭りを楽しんだ。
僕はできれば嫌なことは忘れてしまいたいと、家への帰りにそう思った。